
エマ
…もうダメです。私、SNSやめます。世界中から嫌われてる気がして、昨日の夜から一睡もできてないんです。

レン
やあエマ。目の下に随分と立派なクマがあるね。世界中から嫌われた? 炎上でもしたのかい?

エマ
違うんです。昨日アップした写真、すごく評判が良くて「いいね」も99件ついたし、「可愛い」ってコメントも沢山もらったんですけど…。たった一人、知らない人から「加工しすぎ。実物と全然違うじゃん」ってコメントがついたんです!

レン
ほう。99人が君を褒めて、たった1人が悪口を言ったわけだ。合計100人の反応のうち、たった1人の意見で世界が終わったような顔をしているのかい?

エマ
笑い事じゃないです!その一言を見た瞬間、他の99人の嬉しいコメントが全部吹き飛んじゃって…。「みんな裏ではそう思ってるんじゃないか」って疑心暗鬼になって、怖くてスマホが見れないんです。

レン
なるほど。そのたった1%の毒が、99%の蜜を台無しにしているんだね。エマ、それは君の心が弱いからじゃない。人間の脳に組み込まれた**「ネガティビティ・バイアス」**という生存本能のせいだよ。

エマ
生存本能? 私を傷つけるのが本能なんですか?

レン
原始時代を想像してごらん。「綺麗な花が咲いてる(ポジティブ)」を見逃しても命に別状はないが、「茂みで音がした(ネガティブ=敵かもしれない)」を見逃したら死ぬだろう?だから我々の脳は、良いことよりも「悪いこと」を何倍も強く、長く記憶するように進化したんだ。

エマ
つまり、悪口が気になっちゃうのは、脳が私を守ろうとしてるってことですか?

レン
そう。「危険(悪口)を忘れるな!」と脳が警報を鳴らし続けている状態さ。だが現代のSNSにおいて、その警報は誤作動みたいなものだ。命までは取られないんだから、手動でアラームを止める練習が必要だね。

エマ
手動で止める…。どうすればいいんですか?

レン
単純な算数をすることさ。「1人のアンチ」の背後には、君に好意的な「99人のファン」がいる。そのたった1人のために、残りの99人を無視するのは失礼だと思わないかい?

エマ
…確かに。褒めてくれた友達に失礼ですよね。うーん、悔しいけど、そのアンチコメントは削除して、褒めてくれた子たちに返信してきます!

レン
ああ、それがいい。雑音(ノイズ)に耳を澄ませる必要はない。君が聴くべきなのは、君を応援する声だけだよ。
やあ、レンだ。今回のテーマは「ネガティビティ・バイアス(Negativity Bias)」。
人間の脳が、ポジティブな情報よりもネガティブな情報に対して、より素早く反応し、より強く記憶に刻み込んでしまう心理傾向のことだ。
■「脳のマジックテープ」理論神経心理学者のリック・ハンソンは、この脳の性質をこう表現している。
「脳はネガティブな経験に対してはマジックテープ(Velcro)のようであり、ポジティブな経験に対してはテフロン(Teflon)のようである」と。
嫌なことは一瞬で張り付いて離れないのに、良いことはツルツルと滑り落ちて定着しない。これは、脳の危険探知センサーである「扁桃体」が、不快な刺激に対して過敏に反応するように進化してきたためだ。
原始時代には「生存」のために必須だった機能が、現代のSNS社会では「ストレス」の主原因になってしまっているわけだね。
■黄金比率「3:1」と「5:1」では、どれくらいの「良いこと」があれば、ダメージを相殺できるのか?
心理学の研究では、いくつかの黄金比率が提示されている。
つまり、たった1つの悪口を言われたら、心の中でそれを打ち消すには3〜5倍の「良いこと」が必要になる計算だ。エマが落ち込むのも無理はない。
■処方箋:ポジティブを「インストール」する脳が勝手にネガティブを記憶するなら、ポジティブは「意識的に」記憶させる必要がある。
良いことがあった時、それをさらっと流さずに、「10秒〜20秒間、その嬉しさをじっくり味わう」こと。
そうすることで初めて、その記憶は短期記憶から長期記憶へと定着する(インストールされる)。
意識して「良いこと」を脳に焼き付ける習慣が、心のバランスを守る最強の盾になるはずだよ。