
カイ
…はぁ。レンさん、僕もう会社に行きたくないです。いっそ誰かに、思いっきり殴られたい気分ですよ。

レン
やあカイ。仕事帰りに寄ってくれたのかい?聞いたよ、昨日のプレゼン大成功だったそうじゃないか。「若きエース」なんて呼ばれてるとか。

カイ
やめてください! その「エース」って言葉を聞くだけで吐き気がするんです。あれはただの偶然なんです。たまたまクライアントの機嫌が良かっただけで、僕の実力じゃない。なのに皆が僕を評価する…。「こいつはデキる奴だ」って勘違いしてるんです。

レン
ほう。周囲の評価と、自己評価に大きなズレがあるわけか。

カイ
ズレなんてもんじゃないですよ! 僕は中身のない詐欺師みたいなものです。いつか「カイは本当は無能だ」ってバレるのが怖くてたまらない。明日にもメッキが剥がれて、全員から失望されるんじゃないかって…毎晩震えてるんです。

レン
…なるほど。成功すればするほど、「自分は偽物だ」という恐怖が膨らんでいく。カイ、君は今、とても優秀な人間に特有の「パラドックス(矛盾)」に陥っているね。

カイ
優秀? 嫌味ですか? 僕は詐欺師だって言ってるじゃないですか!

レン
違うね。本物の詐欺師や無能な人間は、「自分は無能かもしれない」なんて悩まない。「自分はもっとできるはずだ」「今のままじゃ足りない」という高い理想があるからこそ、現状の自分を許せないだけさ。その震えは、君が仕事に対して誠実である何よりの証明だよ。

カイ
誠実…? この恐怖が、僕の真面目さの裏返しだって言うんですか?

レン
ああ。その恐怖は「能力不足」のサインじゃない。「成長」へのエンジンの音だ。だから、その音を消そうとしなくていい。「ああ、また俺の脳が真面目に心配してるな」と受け流しておけばいいのさ。

カイ
…そうか。僕がダメなんじゃなくて、真面目すぎるだけ…。そう言われると、少しだけ気が楽になりました。

レン
それでいい。ビビりながらでいいから、一歩ずつ進めばいいさ。君のその「慎重さ」という才能は、僕が高く評価してあげるよ。

カイ
はは、レンさんに褒められると、なんだか裏がありそうで怖いですね。でも、明日はもう少し胸を張って会社に行ってみます。ありがとうございます。
やあ、レンだ。今回のカイのような心理状態を「インポスター症候群(Imposter Syndrome)」と呼ぶ。
客観的に成功しているにもかかわらず、「自分は実力ではなく運が良かっただけ」「いつか偽物だとバレる」と過剰に恐れてしまう心理傾向のことだ。
■70%の人が経験するある調査では、成功した人の約70%がこの感情を経験したことがあると言われている。
「ハリー・ポッター」のエマ・ワトソンや、名優トム・ハンクスでさえ、「いつか『お前は役者失格だ』と言われるんじゃないか」という恐怖を語っているんだ。
■処方箋これは能力が低いから起きるのではない。むしろ責任感が強く、向上心が高い人ほど陥りやすい。
もしこの不安に襲われたら、「この恐怖を感じるのは、私が挑戦している証拠だ」と捉え直すといい。
不安は、君がさらに高いステージへ登ろうとしている「成長痛」のようなものなんだよ。