
リュウ
見ろよ今のシュート! あの選手、今日絶好調だな!さっきから3本連続で決めてるぞ。「ゾーン」に入ってるんだ!次も絶対に決めるぜ!

マスター
……外れましたね。

リュウ
ああっ! チッ、流れが変わったか……。でもさっきまでは確実に「ホットハンド(熱い手)」だったんだよ!スポーツにはそういう「波」があるもんだろ?

マスター
それが、統計学的には否定されているとしたら?バスケットボールの膨大なシュート記録を分析した研究によれば、**「シュートを決めた直後の成功率」は、普段と全く変わらなかった**のです。

リュウ
は? そんなバカな。プロ野球だって「ノッてる打者」は打つだろ? ストライカーだって固め打ちするじゃないか。

マスター
それこそが**「ホットハンド誤謬(ごびゅう)」**。ただの「偶然の偏り」を、人間が勝手に「実力や調子の変化」だと意味づけしてしまう現象です。

リュウ
偶然で3回も連続するかよ!

マスター
しますよ。コインを投げれば、表が3回続くことなど頻繁に起きます。人間は、ランダムなデータの中に「パターン」を見つけようとする本能があります。夜空のデタラメな星の配置を見て、「星座」という物語を作るようにね。

リュウ
星座……。つまり「絶好調」なんてものは、俺たちの妄想ってことか?

マスター
少なくとも確率論の世界では。カクテルをお出ししましょう。『シューティング・スター(流れ星)』。流れ星に願いをかけても、軌道は変わりませんよ。
今回のテーマは「ホットハンド誤謬(The Hot Hand Fallacy)」です。
「成功が続いている人は、次も成功しやすいはずだ」と思い込んでしまう認知バイアスです。
1. ギャンブラーの誤謬との違い
よく似ていますが、逆の心理です。
どちらも「過去の結果が未来に影響する」と信じている点で、等しく間違っています。
独立試行において、流れ(モメンタム)など存在しません。
2. クラスター錯覚
iPodの「シャッフル再生」機能の話をご存知ですか?
当初、Appleは「完全なランダム」にしていましたが、ユーザーから苦情が殺到しました。
「同じアーティストの曲が3回も続いた! ランダムじゃない!」と。
実は、完全なランダムほど、同じものが連続(クラスター化)しやすいのです。
人間がイメージする「バラバラ」は、作為的に作られた「偽のランダム」です。
スポーツの「固め打ち」も、これと同じ現象である場合がほとんどです。
3. 投資への応用
「このファンドマネージャーは3年連続で市場平均に勝っている! 天才だ!」
これもホットハンド誤謬の可能性があります。
何千人もマネージャーがいれば、サイコロを振っているだけでも「3連勝する人」は必ず現れます。
その「たまたま」を「実力」と勘違いして投資すると、痛い目を見ることになります。
本日の教訓:「ツイてる」「流れが来ている」という言葉は、脳が作り出した幻影です。
熱くなっているのは、選手の手(ホットハンド)ではなく、あなたの頭(ホットヘッド)の方ですよ。