
カイ
いやー、今日のタクシー運転手、運転が下手すぎて酔いましたよ。レンさん聞いてくださいよ、急ブレーキは多いし、車間距離は詰めすぎだし!

レン
やあカイ。災難だったね。でも、君はよく「他人の運転」に文句を言っている気がするな。

カイ
そりゃ気になりますよ。僕は運転には自信がありますから。無事故無違反だし、周りの状況もよく見えてる。世の中のドライバーの半分は、僕より運転が下手なんじゃないですかね? 免許返納してほしいですよ。

レン
…ふむ。「自分は平均的なドライバーより上手い」と思っているわけだ。カイ、残念ながらそれは、統計的にあり得ない自信だよ。君は今、**「平均以上効果」**という心地よいぬるま湯に浸かっている。

カイ
ぬるま湯? いやいや、これは事実ですよ。客観的に見て僕は上手いですから。

レン
面白いデータがある。アメリカでドライバーにアンケートを取ったところ、なんと93%の人が「自分は平均より運転が上手い(トップ50%に入っている)」と答えたんだ。

カイ
93%!? …えっと、平均より上が半分(50%)しかいないはずだから…。計算が合わないですね。43%の人が勘違いしてるってことですか?

レン
そういうことだ。人は誰しも「自分は賢く、能力があり、道徳的だ」と思いたがる。だから「自分は平均より少し上だ」と自己評価を盛ってしまうんだよ。君が「周りは下手だ」と感じるのは、君が特別上手いからではなく、君の基準が甘くなっているだけの可能性がある。

カイ
うっ…。でも、自信を持つのは悪いことじゃないでしょう?

レン
適度な自信は精神衛生に良い。だが、「俺は上手いから大丈夫」という過信は、事故の元だ。「自分もいつかミスをするかもしれない平均的な人間だ」と思っている方が、結果的に慎重で安全な運転ができると思わないかい?

カイ
…確かに。「俺は大丈夫」って思ってる時が一番危ないって、教習所でも習いました。タクシーの運転手さんのこと、言えませんね。帰りは気を引き締めて運転します。

レン
ああ。ハンドルも人生も、握りしめすぎないことだね。「自分は凡人だ」と認めることは、諦めではなく、最大の安全装置なんだよ。
今回のテーマは「平均以上効果(Better-Than-Average Effect)」。
別名「優越の錯覚(Illusory Superiority)」とも呼ばれ、自分の能力や資質を、平均的な人々よりも優れていると過大評価してしまう認知バイアスのことだ。
■「私は平均以上」と信じる人々1981年に心理学者オラ・スベンソンが行った有名な調査では、アメリカのドライバーの93%が「自分の運転技術は平均以上だ」と回答した。
これは運転に限った話ではない。
大学教授を対象にした調査では、94%が「自分は平均的な教授よりも優れている」と答え、高校生への調査では、70%が「自分のリーダーシップ能力は平均以上だ」と答えている。
統計的に「平均以上」は全体の50%しか存在し得ないため、人類の半数近くが、自分自身に対して心地よい嘘をついていることになる。
■なぜ「錯覚」は起きるのか?大きな要因は、評価基準の「曖昧さ(Ambiguity)」だ。
例えば「走り高跳び」のような明確な数値が出る競技では、このバイアスは起きにくい。
しかし「運転技術」「道徳心」「ユーモア」といった定義が曖昧なものについては、誰もが自分に都合の良い定義を採用する。
「スピードを出すのが上手い」「慎重なのが上手い」「駐車が上手い」…それぞれが自分の得意な部分を基準にするため、全員が「私は上手い」と結論づけてしまうんだ。
■処方箋:過信のブレーキを踏むこのバイアス自体は自尊心を守るために役立っているが、行き過ぎれば「慢心」や「準備不足」を招く。
もし「周りの人間はなぜこんなに無能なんだ?」とイライラし始めたら、それは君が天才だからではなく、君の脳が「平均以上効果」で酔っ払っているサインかもしれない。
「自分も、自分が思っているほど特別ではないかもしれない」そう謙虚になることは、事故(失敗)を防ぐための最高の安全装置になるんだよ。