
タヌキ店長
はぁ……また断られちゃったよ。隣の森のクマ社長に、僕の最高傑作「絶対に割れない壺」を売り込みに行ったんだ。商品の素晴らしさを伝えるために、辞書みたいな厚さの資料を作って、3時間もかけて機能説明をしたのに、「長くて疲れた」って追い返された。

フクロウ先生
やれやれ。いきなり押しかけて3時間も居座るなんて、それは営業ではなく「軟禁」ですよ。相手の時間を奪っているという自覚がないのですか。で、結局その案件は誰が取ったのですか?

タヌキ店長
それがさ、ライバルの「ワンワン商事」の営業犬なんだよ!あいつなんて、資料も持たずに「ちわーっす! 近くまで来たんで寄りました!」って挨拶しに来るだけなんだぜ?「今日はいい天気ですね」とか「最近腰はどうですか」とか、商品の話もしないで帰っちゃうんだ。

フクロウ先生
それなのに、最終的にクマ社長はワンワン商事から買ったわけですね。

タヌキ店長
そうなんだよ!「あいつはよく顔を見せるし、なんとなく信用できる」だって。「中身」なら僕の方が上なのに、なんで「雑談」しかしない奴が勝つんだよ! 不公平だ!

フクロウ先生
不公平ではありません。それが『ザイオンス効果(単純接触効果)』の力です。人間心理において、知らない相手には警戒心を持ちますが、繰り返し接触することで、次第に好意や親近感を抱くようになるのです。中身の濃い1回の商談より、短くても10回の接触の方が、信頼の土台は築けるのですよ。

タヌキ店長
ええっ!? 「質」より「回数」が大事ってこと?僕の完璧な3時間のプレゼンより、毎朝のたった1分の「おはよう」の方が価値があるなんて……。

フクロウ先生
その通りです。テレビCMが何度も流れるのも、好感度を上げるため。「よく見る顔」になるだけで、商品を選ぶ時の安心感が段違いなのです。「知らないタヌキのすごい壺」より、「いつもの犬の普通の壺」の方が売れるのが現実ですよ。

タヌキ店長
なるほど! 大事なのは顔を見せる頻度か。よし、今日からクマ社長の家の窓の外に張り付いて、24時間じっと見つめ続けることにするよ!これなら接触回数は無限大だ! きっと大好きになってもらえるはず!

フクロウ先生
……それは「好意」ではなく「恐怖」を植え付けるだけです。ストーカーとして通報される前にやめなさい。
1968年にアメリカの心理学者ロバート・ザイオンスが提唱した理論。「特定の対象に繰り返し接することで、その対象への好感度や評価が高まる」現象です。
どんなものに効果がある?
人間に限らず、音楽、図形、商品パッケージ、ブランドロゴ、Webサイトのデザインなど、あらゆるものに適用されます。「最初は変な曲だと思ったけど、街で何度も聴いているうちに好きになった」という現象もこれです。
重要な注意点(逆効果になるケース)
ザイオンス効果には前提条件があります。それは「最初の印象が、少なくともフラット(無関心)以上であること」です。
もし最初の印象が「嫌い・不快」だった場合、接触回数を増やせば増やすほど、嫌悪感が増幅されます。しつこい営業電話や、不快な広告が何度も表示されると余計に嫌われるのはこのためです。
実践テクニック