
エマ
うわぁぁん! 最悪です!レンさん、私、昨日彼氏と別れました!

レン
やあエマ。それは災難だったね。でも、先週来た時は「彼は運命の人かも」なんて目を輝かせていなかったかい?

エマ
違います! 実は最初から怪しいと思ってたんですよ!あの人、連絡は遅いし、スマホを伏せて置くし、女友達も多そうだったし。「あ、この人とは絶対長続きしないな」って、出会った瞬間からピンときてたんです!

レン
ほう。「最初から分かっていた」と。じゃあエマ、なぜ君はそんな「絶対に長続きしない」と確信していた男と付き合ったんだい?最初から分かっていたなら、付き合わなければ傷つかずに済んだはずだろう?

エマ
そ、それは…。当時は「私の力で彼を変えられるかも」って思っちゃったというか…。でも今思えば、やっぱり私の直感は正しかったんです! あの時やめておけばよかった!

レン
やれやれ。君の脳は今、見事な歴史修正を行っている最中だね。エマ、それは**「後知恵バイアス」**だ。結果が出た後になってから、まるで最初から予期していたかのように記憶を書き換えてしまっているんだよ。

エマ
記憶の書き換え…? 嘘ついてるわけじゃないですよ!本当に「怪しい」って感じてたんですから!

レン
もちろん嘘じゃない。でも「怪しい」と感じた記憶だけを強調して、「優しかった」「楽しかった」という記憶を消去しているんだ。そうやって「私は分かっていた」と思い込むことで、予想外の別れで傷ついたプライドを守ろうとしているのさ。

エマ
プライドを守る…。確かに「騙された私」よりは「見抜いていた私」の方が、ちょっとカッコいいかも…。

レン
だろう? でもその思考は危険だ。「私は予知能力がある」と勘違いすると、反省しなくなる。「なぜ彼の本性を見抜けなかったのか?」という本当の原因を分析しない限り、君はまた同じような男に引っかかるよ?

エマ
ギクッ…。確かに、前の彼氏の時も「最初から変だと思ってた」って言った気がします…。

レン
学ばないねぇ。「分からなかった」と認める勇気を持ちなさい。未来なんて誰にも予測できないんだから、間違えた自分を責める必要はないんだよ。
やあ、レンだ。今回のテーマは「後知恵バイアス(Hindsight Bias)」。
物事の結果が出た後になって、「自分は最初からそうなることを予測していた」と思い込んでしまう心理傾向のことだ。
■「やっぱりね!」の正体選挙の結果が出た後に「やっぱりあの候補が勝つと思ってたよ」と言ったり、株価が暴落した後に「バブル崩壊は読めていた」と解説する評論家がいるだろう? これが典型例だ。
1970年代の心理学者バルーク・フィッシュホフの研究によれば、人間は結果を知った瞬間、「その結果に至るまでのストーリー」を脳内で勝手に再構築してしまう。
そして、あたかも最初からその結末が必然であったかのように記憶を修正するんだ。
英語では「I-knew-it-all-along phenomenon(ずっと知ってたよ現象)」とも呼ばれる。
■なぜ記憶を改竄するのか?世界を「予測可能で安心できる場所」だと思いたいからだ。
「予測できないことが起きた」と認めると不安になるが、「私は予測できていた」と思い込めば、世界をコントロールできている感覚(万能感)を得られる。
だが、これは「学習の機会」を奪う副作用がある。
「分かっていた」と思い込めば、失敗の原因を検証しなくなるからだ。
■処方箋:予測メモを残すこのバイアスを防ぐ唯一の方法は、「記録」だ。
重要な決断をする前に、「なぜそうするのか」「どうなると予測しているか」をノートに書いておくこと。
後で見返せば、「全然予測できてなかったじゃん!」と自分の予知能力の無さに驚くはずだ。
しかし、その「予測できなかった」という事実を認めることこそが、次回の予測精度を上げる唯一の道なんだよ。