
先生
おーい、パレット君。もう昼休みも半分終わっちゃうぞ。クラスのみんなはもう校庭で遊んでいるのに、いつまでそのシチューと睨めっこしているんだい?残っているのは……シメジとエリンギだけじゃないか。好き嫌い言わずに、「エイッ」と飲み込んじゃいなよ。

パレット君
……(涙目で首を横に振る)……。無理だよ先生、絶対に無理だ。僕にはこれが、美味しいシチューには見えない。泥水の中に、**『スライスしたゴムタイヤ』**か、水で戻してふやけた**『濡れた消しゴム』**が浮いているようにしか見えないんだ。

先生
ゴムタイヤに、消しゴムだって?ただのキノコだよ。栄養もあるし、噛めば旨味が出て美味しいじゃないか。「食わず嫌い」は良くないなぁ。鼻をつまんで口に入れれば、味なんて分からないよ?

パレット君
味の問題じゃないんだよ!!匂いや味なら我慢できる。でも、この「食感」だけはどうしても脳が許してくれないんだ。想像してみてよ先生。口の中に「生きたナメクジ」や「輪ゴムの塊」を入れられて、「噛んで飲み込め」って言われたらどうする?噛んだ瞬間の、あの「ブヨブヨ」「キュッ」とした弾力を感じただけで、背筋が凍って吐き気がするでしょ?

先生
うっ……ナメクジと言われると、確かにキツイな。でも、キノコは食べ物だよ? 毒があるわけじゃない。

パレット君
僕の口の中のセンサーにとっては、毒物と同じなんだ。キノコを口に入れた瞬間、脳の中で**「緊急警報! 異物混入! 直ちに排出しろ!」**ってサイレンが鳴り響く。そうすると、喉の奥にあるシャッターが「ガシャン!」と閉じて、飲み込めなくなるんだ。もし先生の言う通りに無理やり水で流し込もうとしたら、シャッターが逆流して、胃の中身ごと全部マーライオンみたいに吐き出しちゃうよ。

先生
喉のシャッターが閉じる……。単なる「わがまま」で選り好みしているんじゃなくて、身体の防衛本能が物理的に「受け付けない」状態になっていたのか。僕たちが、泥のついた石を「飲み込め」と命令されているのと同じ恐怖を、君はずっと感じていたんだね。

パレット君
そうなんだ。豆腐みたいな「柔らかいもの」は大丈夫なんだけど、キノコや脂身みたいな「噛み切れないブヨブヨ」は、僕にとっては食べ物じゃなくて**「ゴム製品」**なんだよ。お願いだから、これを食べることを許して。もう匂いを嗅いでいるだけで限界なんだ。

先生
分かった、もう十分だ。給食の時間は、君を苦しめるための時間じゃないからね。無理に勧めてごめん。残していいから、早く片付けて遊びに行こう。
■味ではなく「食感」が恐怖発達特性のある人の偏食は、「味がまずい」ことよりも、「舌触りや噛み応え(テクスチャー)」への過敏性が原因である場合が多くあります。
彼らの口の中は非常に繊細なセンサーの塊で、以下のような感覚を敏感に察知し、強い不快感を抱きます。
■「命を守るため」の嘔吐反射人間には本来、喉に詰まりそうなものや毒物を飲み込まないための防御本能(嘔吐反射)があります。
触覚過敏のある人にとって、苦手な食感の食材は「食べ物」ではなく「危険物」として認識されるため、脳が全力で排除しようとします。
これは本人の努力や根性で抑えられるものではなく、無理に食べさせると実際に激しく嘔吐し、給食自体がトラウマになってしまいます。
■私たちにできること「一口だけ頑張ろう」という指導は、彼らを追い詰めるだけです。