
先生
ふぅ、少し休憩しようか。このカフェ、ジャズが流れていて落ち着くね。パレット君も、好きな飲み物を頼んでいいよ。

パレット君
……(キョロキョロして、落ち着かない様子)……。え? なに?ごめん先生、今なんて言ったの?

先生
あれ? 聞こえなかった?「好きなものを頼んでいいよ」って言ったんだ。そんなに大きな声じゃないけど、普通に会話できる距離だよね?

パレット君
うーん……。僕の耳には、先生の声が届く前に、色んな音が「通せんぼ」をしてくるんだ。店内のジャズ、隣の席の笑い声、店員さんがカップを洗うカチャカチャ音、外を走るバイクの音……。それら全部が「主役」として主張してきて、先生の声が埋もれちゃうんだよ。

先生
全部が主役?僕にとっては、BGMや周りの音はあくまで「背景(バックグラウンド)」で、意識しなくても無視できているんだけど……。

パレット君
僕の世界には「背景」がないんだ。テレビの音量を全部MAXにして、5つのチャンネルを同時に見ているようなものかな。だから、先生の言葉を聞き取るためには、ジグソーパズルみたいに断片的な音を頭の中で必死に組み立て直さないといけない。「す、き、な、も、の……」って。

先生
会話をするだけで、そんなに複雑な処理をしていたのか……。それは「落ち着く」どころか、激しいスポーツをしているくらい疲れるね。

パレット君
そうなんだ。だから僕は、騒がしい場所だと無口になったり、愛想笑いばかりになっちゃう。無視してるんじゃなくて、情報の処理落ちでフリーズしているだけなんだよ。
■なぜ聞き取れないのか?音響工学に「S/N比」という言葉があります。Sはシグナル(聞きたい音)、Nはノイズ(雑音)です。
定型発達の脳は、ノイズを無意識に小さく処理し、シグナルを強調することができます。しかし、発達特性のある人の脳は、ノイズ(BGMや環境音)もシグナル(話し声)も等価な情報として処理してしまいます。
■聴力検査では異常がない「耳が遠いのかな?」と思って聴力検査をしても、「異常なし(音は聞こえている)」と診断されることがよくあります。
問題は耳(ハードウェア)ではなく、脳の処理(ソフトウェア)にあるためです。これを「聴覚情報処理障害(APD / LiD)」の傾向として捉えることもあります。
■「聞いていない」という誤解雑音下で何度も聞き返したり、反応が遅れたりすると、「話を聞いていない」「集中力がない」と誤解されがちです。
しかし実際は、「あまりにも多くの音を聞きすぎていて、特定の声だけを抽出できない」状態なのです。
■私たちにできること