
リュウ
うう……腹いてぇ……。持ってる株が暴落してるんだ……。でも、売るに売れねぇ……。

マスター
いらっしゃいませ。……まだ持っていたのですか?先週、「危険水域だから切れ(売れ)」と申し上げたはずですが。

リュウ
だって! 今売ったら10万円も損するんだぞ!?確定したくないんだよ! 持ってればいつか戻るかもしれないだろ!?

マスター
それこそが、人間が最も抗えない呪い。**「損失回避性(プロスペクト理論)」**です。リュウ様、あなたは「10万円得する喜び」より、「10万円損する痛み」の方が、**約2.25倍も強く感じる**ように脳が設計されています。

リュウ
2倍以上も痛い……? だから動けねぇのか……。

マスター
野生の動物にとって、「餌を取り逃がすこと」より「傷を負うこと」の方が致命的だからです。しかし相場の世界では、その本能が命取りになります。「腐った腕」を切り落とすのを躊躇って、全身に毒が回って死ぬ。それが今のあなたです。

リュウ
でも、切った直後に上がったらどうすんだよ! 悔しくて死んじまうよ!

マスター
感情論で語っているうちは、一生カモのままです。カクテルをお出ししましょう。『ギムレット』。言葉の意味は「錐(きり)」。心を鋭くえぐる痛みと共に、毒を排出なさい。
今回のテーマは「損切り(Stop Loss)」と「損失回避性」です。
行動経済学のプロスペクト理論における最重要概念です。
1. 損失は「確定」するまで認めたくない
含み損(まだ決済していない損)の状態なら、人は「まだ負けていない」と自分に嘘をつけます。
しかし、ボタンを押した瞬間に「負け」が現実になります。
この精神的苦痛を避けるために、人は非合理的な希望的観測にすがり、ズルズルと傷口を広げます。
2. プロスペクト理論のグラフ
利益が出ている時は「早く確保したい」とリスク回避的になり(利小)、
損失が出ている時は「取り返したい」とリスク追求的になります(損大)。
これが、投資初心者が必ず陥る「利小損大」のメカニズムです。
3. 損切りの極意
プロのトレーダーは、エントリーする前に「ここで損切る」というラインを決めています。
そこに感情は挟みません。
「もしかしたら上がるかも」という期待は、確率論においてはノイズでしかないからです。
本日の教訓:「戻るかもしれない」と祈り始めた時点で、それは投資ではなく「お祈り」です。
祈るなら教会へ行きなさい。相場は祈りを聞き届けてはくれません。