
タヌキ店長
フクロウ先生、助けてくれぇ……。机の上に山積みになった「特製クリームパン」、全然売れないんだよ。味には絶対の自信があるのに、どうして誰も「10個セット」を買ってくれないんだろう?

フクロウ先生
ほう。バラ売りなら1個100円で飛ぶように売れているパンですよね。その「10個セット」は、いくらで売っているのですか?

タヌキ店長
もちろん、1000円だよ!1個で幸せになれるパンが10個もあるんだから、お客様は「10倍の幸せ」になれるはずだろ?割引なんてしたら、このパンの価値を下げることになるじゃないか!

フクロウ先生
……なるほど。君は人間の心理を全く分かっていませんね。では実験です。君が今、そのパンを10個食べてみなさい。君の言う「10倍の幸せ」が本当にあるかどうか、確かめてみましょう。

タヌキ店長
望むところだ! いただきまーす!(モグモグ……)うん! 1個目、最高! 甘くてふわふわで、まさにとろける美味しさだよ!(モグモグ……)2個目も美味しい! まだまだ余裕だね。(モグモグ……)……ふぅ、3個目。うん、まあ美味しいかな。(モグモグ……)……うっ、5個目。……ちょっと油っこく感じてきたぞ。

フクロウ先生
おや、ペースが落ちましたね。さあ、あと5個ありますよ。「幸せ」なんでしょう? 続けてください。

タヌキ店長
(ムグムグ……)……もう無理……。8個目……味がしない……ただの苦行だ……。フクロウ先生、もう許して……。今ならお金を払ってでも食べるのをやめたい気分だよ……。

フクロウ先生
それが答えです。1個目の価値は高くても、2個目、3個目とお腹が満たされるにつれて、そのパンから得られる「満足度(効用)」は急激に下がっていく。これを『限界効用逓減(ていげん)の法則』と言います。君にとって、今の10個目のパンは「100円の価値」どころか、「マイナスの価値(ゴミ)」なんですよ。

タヌキ店長
ううっ……気持ち悪い……。確かに、今の僕に「あと1個100円で買う?」って聞かれても、絶対買わないよ。半額の50円でもいらないかも。

フクロウ先生
でしょう?お客様も同じです。一度に10個買ってもらうには、下がっていく満足度に合わせて値段も下げなければ、釣り合わないのです。「10個で800円」のように割引して初めて、お客様は「それならまとめて買おうか」と思うのですよ。

タヌキ店長
そっか……。「量は幸せを薄める」ってことなんだね。よし、この売れ残ったパンは「2個目無料」にして売り切ってくる!……僕は当分パンは見たくないけどね。
経済学の基本原則の一つ。「あるモノやサービスの消費量が増えるにつれて、そこから得られる追加的な満足度(限界効用)は、次第に減っていく」という法則です。
・「最初のひと口」が最も価値が高い
この法則の最も有名な例えは「ビール」です。
真夏の暑い日に飲む「1杯目のビール」は、何物にも代えがたい格別の美味しさ(高い効用)があります。
しかし、2杯目、3杯目と進むにつれて、喉の渇きが癒やされ、最初の感動は薄れていきます。
そして10杯目にもなると、「もう飲みたくない」という状態になります。
同じ商品でも、「1個目」と「10個目」では、消費者にとっての価値が全く違うのです。
・ビジネスにおける価格戦略
この法則があるため、ビジネスでは「たくさん買わせる」ために工夫が必要です。